最近、SNS上で突如として「スパイ防止法」がトレンド入りし、多くの人々がそのワードに注目するようになりました。
気にはなるもののテレビで報道されることも無いので、「実際どんな法律なの?」「日本にもできるの?」「なぜ反対する人がいるの?」など疑問を持つ人も多いですよね。
この話題は単なる政治的議論にとどまらず、私たちの「表現の自由」や「知る権利」にも影響を与える重要な法案なのです。
スパイ防止法ってどんな法律?

スパイ防止法とは、外国の諜報機関や工作員による情報収集活動、いわゆる「スパイ行為」を取り締まる法律です。
国家機密や軍事機密を不法に収集・漏洩する行為を犯罪として処罰する仕組みを指します。
驚いたことに、スパイ行為そのもので逮捕できないのは世界で日本だけなのです。
これは先進国の中でも極めて異例な状況といえますよね。
日本における議論の歴史
さて、日本でのスパイ防止法をめぐる議論には長い歴史があります。
1985年の「国家秘密に係るスパイ行為等の防止に関する法律案」が提出 → 反対多数で廃案という経緯から始まり、その後も幾度となく議論が繰り返されてきました。
実際のところ、2013年に「特定秘密保護法」成立 → 国家機密の管理を強化によって部分的な対応は図られているものの、包括的なスパイ防止法制はいまだ実現していません。
それでも、スパイ活動の増加など近年の国際情勢の変化を受けて、2024年に「スパイ防止法」の再議論が浮上するなど活発化の傾向にあります。
スパイ防止法導入のメリット
スパイ防止法が制定された場合のメリットはなんでしょうか?
国家機密の確実な保護が実現
まず挙げられる最大のメリットは、国家の重要機密を確実に保護できる点です。
現在の日本では、スパイ行為そのものを直接処罰する法律が存在しないため、外国勢力による諜報活動に対して十分な抑止力を発揮できていません。
スパイ防止法が制定されれば、防衛機密や外交機密、経済機密といった国家の根幹に関わる情報を体系的に保護する法的枠組みが整備されます。
これにより、国家の安全保障体制が大幅に強化されることになります。
外国からの諜報活動への強力な抑止効果
法律の真価は「予防効果」にこそあります。
厳格な処罰規定を設けることで、外国の工作員やスパイに対して強力な心理的抑止力が働きます。
実のところ犯罪の発生を未然に防ぐことこそが、法制度の本来の目的といえます。
アメリカ・フランス・イギリス・ドイツ・韓国・中国などの諸外国では、いわゆるスパイ防止法が整備されており、国際的な協力体制の構築においても、日本が同水準の法制度を持つことは重要な意味を持ちます。
経済・技術情報の漏洩防止による産業競争力向上
現代のスパイ活動は軍事機密だけでなく、先端技術や経済情報の窃取にまで及んでいます。
日本の優れた技術力や産業機密が不法に流出することを防ぐことで、国際競争力の維持・向上につながると考えられています。
スパイ防止法導入のデメリット
明確なメリットとは逆に、制定された場合に想定されるデメリットも存在します。
それは、「表現の自由」と「知る権利」が法律によって制限される可能性があるということです。
日本弁護士連合会はこれを「人権侵害の危険」と呼び、法律案の撤回を求める声明を発表しました。
報道の自由への制約という重大なリスク
前述のとおり、スパイ防止法の制定には深刻なデメリットが存在します。
最も懸念されるのが、報道の自由への制約です。
「報道の自由を制限する危険がある」として廃案となった1985年の法案と同様の問題が再び浮上する可能性があります。
ジャーナリストや研究者が政府の政策を検証・批判する際に、「国家機密への接触」を理由に活動が制限される恐れがあるのです。
これは民主主義の根幹を揺るがしかねない重要な問題といえますよね。
市民の知る権利の侵害リスク
より深刻な問題は市民の知る権利への影響です。
政府にとって都合の悪い情報が「国家機密」として過度に分類され、国民が本来知るべき情報にアクセスできなくなる可能性があります。
実際に、現在国会に提出されている「国家秘密に係るスパイ行為等の防止に関する法律案」は、人権侵害の危険が極めて大きいという指摘も存在します。
透明性と説明責任が民主主義の基盤である以上、このバランスをいかに保つかが重要な課題となります。
政府による情報統制強化への懸念
スパイ防止法は政府が情報をコントロールする強力な手段ともなり得ますが、政治的な批判や政府への異論を封じ込める道具として悪用されるリスクは決して軽視できません。
「スパイ行為の防止は必要だが、政府による情報統制につながる懸念もある」という当時の野党議員の指摘は、現在でも十分に検討すべき重要な視点といえます。
他国のスパイ防止制度の実態
他の国ではどんなスパイ防止法が制定されているのでしょうか?
アメリカの厳格なエスピオナージ法
アメリカには1917年成立の「エスピオナージ法(Espionage Act)」があり、スパイ行為に加えて機密漏洩に関する広範な規定があります。
この法律は100年以上の歴史を持ち、数多くの改正を経て現在に至っています。
本来、軍事作戦を妨げるあらゆる試み、戦時にアメリカの敵を支援すること、軍事的な不服従を促すこと、軍事的な徴用を妨げることを禁止するものであったとして制定されましたが、現在では平時における諜報活動の取り締まりにも活用されています。
イギリスの公的秘密法による情報管理
イギリスも「Official Secrets Act(公的秘密法)」を持ち、国家機密に関する情報の漏洩を厳しく罰しています。
この法律の特徴は、政府職員だけでなく機密情報を受け取った民間人も処罰対象となる点です。
イギリスやアメリカでは、スパイ防止法が報道の自由や市民の権利を制限する可能性も指摘されているのが現実。
完璧な制度というものは存在せず、各国とも試行錯誤を続けているのが実情なのです。
ドイツをはじめとするヨーロッパ諸国の取り組み
フランスやドイツ、中国やロシアは言うまでもなく、諜報・スパイ行為に対して非常に強力な法制度と公的組織を備えています。
これらの国々では、国家の安全保障を最優先事項として位置づけ、包括的な対策を講じています。
「安全保障」と「自由」のバランスをどう取るかが各国共通の課題となっているようです。
完全な自由も完全な安全も実現不可能である以上、両者の適切なバランスポイントを見つけることが重要なのだと思います。
スパイ防止法に反対する人たちがいる理由とは?
日本におけるスパイ防止法の議論は、単純な賛成・反対の二元論では解決できない複雑な問題です。
国家の安全保障は確実に強化しつつ、同時に民主主義の価値である表現の自由や知る権利を最大限尊重する制度設計が求められます。
日本にスパイ防止法を導入する際にも、こうした海外の事例を参考にしながら、 民主主義の価値を損なわない形での制度設計が求められるのです。
「スパイ防止法に反対している人は実はスパイ」とも言い切れないのは、制定後に待っている”不自由”を警戒している場合もあるからなのです。